西の国から美的通信#24 五島の旅(1):天然の美容オイルを求めて長崎・五島列島へ
それは昨年の晩秋に仕事で出向いたハウステンボスでのこと。ディレクターの計らいで、敷地内のエステルームで椿油を使ったオイルマッサージを体験しました。これがよっぽど肌へ浸透したのか!? 決してサラリとではない、少々重みのある肌のすべり感。かといっていやなベタつきもなく、これまで使っていたオイルとはあきらかに違う感覚を体感しました(※)。それまで椿油といえば、力士が使う鬢付け油を代表するように髪につけるオイルと思っていた私は、“椿油っていったいナニモノ?” 。この好奇心が、椿油の原産地である五島への旅に駆り立てたのです。
椿油といえば、生産量日本一の伊豆大島を連想する人も多いかもしれませんが、「東は大島、西は五島」と言われるくらいに椿の自生地として名高い五島は、昭和30年頃は全国生産量の約半分を占めていたほど。世界的な銘花としても知られる「玉之浦椿」は、五島の玉之浦で発見されたことからこの地名がそのまま名付けられたらしく、なるほど長崎の県花が「椿」(写真A)というのもうなずけました。
初めて私が五島に出向いたのは2月の下旬。ちょうど「五島つばき祭」(写真B)が開催されていました。五島市から近い久賀島の椿原生林も気になりつつ、翌日、船に乗って新上五島町へ。椿油に興味を持ってから、現地の情報収集などでお世話になっていた観光物産課さんのおかげで、高品質な椿油を製造しているという「新上五島町振興公社」を見学することができました。ただ残念ながら、時期的に工場は稼働していなかったのですが、工場内(写真C)へ一歩入ると、独特な油の匂いが立ちこめていました。機械が動いている時期は、もっと香ばしい匂いがして賑やかな機械の音が響き渡っているそうです。
製造工程は乾燥した椿の実をボイラーで焼いて粉砕…と、詳しい流れは企業秘密とのことですが、工程を聞いていておもしろいな〜と思ったのが、椿の実(写真D)の収穫方法。なんと、初秋頃になると地元の子どもさんからお年寄りまで総出で行なっているそうです。振興公社で買い取ってくれるとあって(価格は年にもよるが、昨年を例にあげると1kg 750円)、ちょっとしたおこずかい稼ぎに。もともとは農作物を守る防風林として植えられた椿ですが、町のあちこちに生息していて、街路樹も椿といった状態(写真E)なので、気軽に収穫できそうです。とはいっても、椿の実1kgに対して、油になるのはわずか300ml。いかに希少価値の高いものであるのかが伺えます。そのうえ、加工過程で出てくる実のかすは全体の6割。これらは畑の肥料などに活用されているとのことで、無駄なものは何ひとつありません。つくづくうまくできているな〜と感心したのでした。ちなみに稼働期にこちらで使われている椿の実は、一日600〜650トン。今年も1月から2月半ばまで、7〜8トンの椿油が生産されたそうです。
「昔は椿油も手作りしていたんです。今もお年寄りがいるご家庭では、自家製の椿油を使っていらっしゃるところもあると思いますよ。平成10年から地元の小学校では、昔ながらの製法で椿油作りの体験学習も行なっています。五島の人にとって、椿油は日常生活に当たり前にあるものですから」とは、観光物産課の山口舞子さん。
手作り(!?)、昔ながらの製法(!?)という言葉に妙に反応してしまった私は、どうやって作るのかしら? と次なる疑問が! 最初に大型の機械が配されている工場を見たのも大きかったのですが、これだけの工程を人の手作業で行うとはどれだけの労力が必要なのだろう? また、そこまでの労力を費やした椿油を地元の人たちは、どのように活用しているのだろうか? そういえば、五島の名産・五島うどんにも椿油が使われているし、おそらく五島ならではの椿油の利用方法があるのかもしれない。気がつけば五島の椿油そのものから、五島の人たちの日常生活に根付いた椿油に興味が移っていました。こうして、翌月(3月)も五島へ出向くことになったのです。《次号へ続く》
※ 椿油の特性を調べると、オリーブオイルよりオレイン酸の含有率が高く、椿油の成分は人の肌の皮脂と最も似ているらしい。よって、ほかのオイルと比べて肌すべりが重いと感じたのは、それだけ浸透していたからにほかなりませんでした。
<取材協力>
長崎県新上五島町観光物産課
http://official.shinkamigoto.net/
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